不動産の売買は、一件あたりの取引金額が大きく、当事者にとって重要な意思決定を伴う取引です。それだけに、いったんトラブルが生じると、損害額も対立の深刻さも他の取引の比ではありません。
そして不動産売買のトラブルには、ひとつの特徴があります。問題の多くが、引渡しを終えて取引が完了したと思った後に表面化するという点です。決済が済み、代金も受け取った数か月後に、買主から「聞いていた話と違う」「修補してほしい」と連絡が入る。こうしたご相談は決して珍しくありません。
この記事では、不動産を売却する立場の方、および不動産取引を業として行う事業者の方に向けて、売買契約で起こりやすいトラブルを時系列で整理し、実際に責任を追及されたときの対応手順と、予防のための契約実務について解説します。あわせて、積雪・凍結による損傷や古家付き土地の取扱いなど、札幌・北海道の取引に特有の論点についても触れます。
不動産売買でトラブルが起こりやすい3つの理由
売主と買主の間に情報の格差が生じやすい
不動産は、同じものが二つとない個別性の高い財産です。過去にどのような使われ方をしてきたか、どこに不具合があるか、周辺環境にどのような事情があるかといった情報は、その不動産を保有してきた売主の側に偏って存在しています。
買主は、限られた内見の機会と、売主・仲介業者から提供される情報をもとに判断せざるを得ません。この情報の非対称性が、「知っていれば買わなかった」という後日の主張につながります。売主にとっては、自分にとって当たり前だった事実が、買主にとっては契約の前提を覆す重大事項になり得るという点に注意が必要です。
問題の多くが引渡し後に表面化する
雨漏りは雨季にならなければわかりません。地中の埋設物は、買主が建物を建てるために掘削して初めて発見されます。近隣の事情も、実際に住んでみなければ気づかないことが大半です。
つまり不動産売買のトラブルは、代金の受領と引渡しが完了し、当事者の関係が終わったと思われた後から始まるという構造を持っています。この時点では既に取引の記録が散逸していることも多く、後から事実関係を立証することが難しくなります。
取引金額が大きく、感情的な対立に発展しやすい
補修費用や代金減額の請求は、数十万円から数千万円に及ぶこともあります。買主にとっては人生最大級の買い物であり、事業者にとっては事業計画の根幹に関わる投資です。金額が大きいだけに双方とも譲りにくく、当事者同士の話し合いでは収拾がつかなくなりやすい傾向があります。
実際の相談・紛争においても、重要事項説明に関するもの、契約の解除に関するもの、引渡し後に判明した不具合に関するものが、類型として多く見られます。以下では、この3つを含めて、契約の各段階で生じやすいトラブルを見ていきます。
契約前・契約時に起こりやすいトラブル事例
手付金の返還・手付解除をめぐるトラブル
不動産売買では、契約締結時に買主から売主へ手付金が交付されるのが一般的です。特に定めがなければ、この手付は解約手付としての性質を持ちます。
民法557条1項により、相手方が契約の履行に着手するまでは、買主は手付を放棄することで、売主は手付の倍額を現実に提供することで、それぞれ契約を解除できます。相手方に落ち度がなくても、自己都合で契約から離脱できるという点に、手付の大きな意味があります。
ここで争いになりやすいのが、「履行に着手した」といえるかどうかの判断です。売主が引渡しの準備として建物の解体に着手した、買主が残代金の融資実行手続きを進めたといった事情がどう評価されるかによって、解除の可否が変わります。また、売主が倍返しによって解除する場合、口頭で「倍返しする」と伝えるだけでは足りず、現実に金銭を提供する必要がある点も見落とされがちです。
なお、売主が宅地建物取引業者で買主が業者でない場合には、宅地建物取引業法39条1項により、代金の2割を超える手付を受領することができません。2割を超える部分の受領は許されず、超過部分については買主から返還を請求されることになります。また、同条の規定に反する特約で買主に不利なものは無効とされます(同条3項)。
ローン特約による白紙解除と違約金の問題
買主が金融機関の融資を前提に購入する場合、融資が承認されなかったときに契約を解除できる旨の特約(ローン特約)を設けるのが通例です。この特約に基づく解除は、当事者に責任がない解除として扱われ、受領済みの手付金は買主に返還され、違約金も発生しないのが一般的な建付けです。
売主側のリスクは、この特約が曖昧なまま契約が進むことにあります。融資を申し込む金融機関が特定されていない、解除できる期限が定められていない、といったケースでは、買主が長期間にわたって離脱の可能性を保持したままとなり、売主の地位が不安定になります。ローン特約を置く場合には、金融機関・融資金額・申込期限・解除期限を明記しておくことが不可欠です。
重要事項説明の不足を指摘されるケース
宅地建物取引業法35条は、宅地建物取引業者が取引の当事者となる場合や媒介する場合に、契約が成立するまでに、宅地建物取引士をして買主に重要事項を説明させることを義務づけています。説明すべき事項には、登記された権利の種類と内容、法令上の制限、私道の負担、ライフラインの整備状況、建物状況調査の結果の概要、造成宅地防災区域・土砂災害警戒区域・津波災害警戒区域に該当するか否か、水防法に基づく水害ハザードマップにおける物件の所在地、契約解除に関する事項、損害賠償額の予定などが含まれます。
このうち水害ハザードマップ上の所在地の説明は、2020年8月の施行規則改正によって義務づけられた比較的新しい項目です。ハザードマップが改訂されているにもかかわらず古い版で説明していた、といった事態が生じないよう、取引のたびに最新版を確認する運用が必要になります。
トラブルの典型は、説明の漏れと不正確な説明です。実際に紛争となった事例としては、道路の拡張計画が説明されていなかった、接道要件を満たしていないことが伝えられていなかった、市街化調整区域である旨の説明が事実と異なっていた、水害の危険性について触れられていなかった、といったものが挙げられます。
説明義務違反が認められた場合、買主から損害賠償を請求されるほか、事案によっては契約の取消しや解除を主張されることもあります。宅建業者については、行政処分の対象となる可能性も生じます。重要事項説明書に記載しなかった事項であっても、取引の判断に影響を与える事実を知っていた場合には、信義則上の説明義務を負うと判断されることがある点には特に注意が必要です。
仲介業者・媒介契約に関するトラブル
売主・買主・仲介業者の三者が関わることで、責任の所在が不明確になる場面もあります。売主が仲介業者に伝えた事実が買主に正確に伝わっていなかった、専任媒介契約中に他の業者を通じて売却してしまった、仲介手数料の発生時期をめぐって認識が食い違った、といったケースです。
売主としては、物件に関する情報を仲介業者へ書面で提供し、その記録を残しておくことが、後日の紛争において自らを守る材料になります。
引渡し後に起こりやすいトラブル事例(契約不適合責任)
引渡し後のトラブルの多くは、契約不適合責任という枠組みで争われます。
2020年4月に施行された改正民法により、それ以前の「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」へと再構成されました。現在の民法では、引き渡された目的物が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しない場合、買主は売主に対して、追完請求(修補や代替物の引渡し)、代金減額請求、損害賠償請求、契約の解除という4つの手段を取ることができます(民法562条〜564条)。
改正前は「隠れた瑕疵」があることが要件とされていましたが、現在は契約の内容に適合しているかどうかが判断基準です。つまり、「その不動産がどのような状態であることを前提に契約したのか」が争点となります。売主にとっては、契約書と物件状況報告書にどこまで記載していたかが、そのまま防御の材料になるということです。
雨漏り・シロアリなど物理的な不具合
最も頻度が高いのが、建物自体の不具合です。雨漏り、シロアリ被害、給排水管の漏水、設備の故障、外壁や基礎のひび割れなどが該当します。
争点となるのは、その不具合が引渡し前から存在していたのか、引渡し後に生じたものなのか、そして築年数や価格に照らして契約が予定していた品質の範囲内といえるかです。築40年の中古住宅を相応の価格で売却した場合、新築同様の性能が契約内容になっていたとは通常考えられません。この点は売主側の重要な反論の柱になります。
事故物件・心理的瑕疵と告知義務
過去に自殺や事件があった物件については、心理的な要因が契約不適合と評価されることがあります。
この分野については、国土交通省が2021年10月に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を公表しています。ガイドラインでは、老衰や病死といった自然死、日常生活における不慮の事故による死については原則として告知の必要がないとされる一方、それ以外の死や、特殊清掃等が行われた場合には告知が必要とされています。
期間の目安については、取引の種類によって扱いが分かれます。賃貸借については、他殺・自殺や特殊清掃等が行われた事案であっても、その発生から概ね3年間を経過した後は原則として告知を要しないとされています。これに対し、売買については、このような期間の目安は設けられていません。売買の場面では、年数の経過だけを理由に告知を省略する判断は取らないのが安全です。
なお、ガイドラインはあくまで宅建業者の対応の指針であり、これに従っていれば必ず責任を免れるというものではない点にも留意が必要です。
地中埋設物・土壌汚染が発見されたケース
土地取引で損害が大きくなりやすいのがこの類型です。買主が建築工事に着手した段階で、旧建物の基礎、コンクリート塊、産業廃棄物などが地中から発見され、撤去費用の負担を求められるというケースが典型です。土壌汚染が判明した場合には、調査・対策費用が高額になることもあります。
売主が過去の土地利用状況を知っていた場合には、知りながら告げなかったと評価されるリスクが生じます。工場や給油所などの跡地を売却する際には、事前の調査と告知を慎重に行うべき場面です。
登記簿面積と実測面積が異なるケース
登記簿上の面積と実際の面積が一致しないことは、決して珍しくありません。問題となるのは、契約が公簿売買(登記簿面積を基準として代金を確定し、差異があっても精算しない方式)と実測売買(実測面積に基づいて代金を精算する方式)のどちらであったかです。
契約書上の記載が曖昧なまま取引が進むと、後から代金の返還を求められることになります。どちらの方式によるのかを契約書に明記するだけで避けられるトラブルです。
土地・権利関係に起因するトラブル事例
境界の不一致・越境物の存在
売買実務においては、売主は買主に対して土地の範囲を明示する義務(境界明示義務)を負うものとされ、契約書にもその旨が定められるのが通常です。しかし、境界標が工事や積雪、経年によって失われていたり、隣地所有者との認識が食い違っていたりすることは少なくありません。
境界が確定していない土地は、そもそも売却手続きが円滑に進みません。また、ブロック塀や庭木、屋根の一部が隣地との間で越境している場合、その処理方法を契約前に取り決めておかなければ、引渡し後に買主と隣地所有者との紛争を招くことになります。
境界について争いがある場合には、隣地所有者の立会いのもとで境界確認書を作成する方法のほか、法務局の筆界特定制度や境界確定訴訟といった手続きの利用も検討することになります。
ここで押さえておきたいのは、筆界特定制度が明らかにするのは公法上の境界である筆界であり、当事者の合意によって動かすことのできる所有権の範囲(所有権界)とは別の概念だという点です。越境した塀や庭木の処理は所有権界の問題であり、筆界が特定されれば当然に解決するというものではありません。両者を混同したまま交渉を進めると、話が噛み合わないまま時間だけが経過することになります。
私道の通行権・接道義務の問題
前面道路が私道である場合、通行や掘削(上下水道管の引込工事など)について私道所有者の承諾が必要になることがあります。この承諾が得られなければ、買主は建物を建てられず、購入目的を達成できません。
また、建築基準法上の接道義務を満たしていない土地は、原則として建物を建築できません。これらは重要事項説明の対象でもあり、説明を怠ると説明義務違反として責任を問われる可能性が高い領域です。
抵当権の抹消や共有者の同意が得られないケース
売却する不動産に抵当権が設定されている場合、決済と同時に抹消することが前提となります。売却代金で被担保債権を完済できない場合には、金融機関との事前協議が不可欠です。
また、相続などによって共有状態にある不動産は、共有者全員の同意がなければ売却できません。一部の共有者が売却に反対している、あるいは連絡が取れないといった事情がある場合には、契約締結前に権利関係を整理しておく必要があります。
買主から責任を追及された場合の売主側の対応手順
実際に買主から請求を受けた場合、感情的に応じたり、その場しのぎで補修を約束したりすることは避けるべきです。次の順序で冷静に検討してください。
契約書・重要事項説明書・物件状況報告書を精査する
最初に行うべきは、契約の内容として何を合意していたかの確認です。契約不適合責任は「契約の内容に適合しているか」を基準に判断されますから、出発点は常に契約書類にあります。
物件状況報告書に雨漏りの履歴を記載していた、重要事項説明書に土地の履歴を記載していた、といった事実があれば、それは契約の前提として買主が了解していたことを示す有力な資料となります。逆に、これらの書面に何も記載がなければ、売主側の立証は難しくなります。
契約不適合に該当するかを法的に見極める
買主の主張する不具合が、そもそも契約不適合といえるのかを検討します。築年数・価格・現況有姿での取引であったかどうかといった事情に照らし、契約が予定していた品質の範囲内にとどまるのであれば、契約不適合には当たりません。
ただし、契約書に「現況有姿で引き渡す」との条項があることだけを理由に、当然に責任を免れられるわけではない点には注意が必要です。現況有姿条項は、引渡しの態様、すなわち引渡し時点の状態のまま引き渡すことを定めたものと解されるにとどまり、それ自体が契約不適合責任を免除する趣旨とまでは認められないと判断されることが少なくありません。免責を意図するのであれば、後述する免責特約を別途明確に置く必要があります。
また、買主が請求できる手段には順序があります。代金減額請求は、原則として、相当の期間を定めて追完(修補)を催告し、それでも履行されない場合に初めて可能となります(民法563条1項)。買主がいきなり減額を求めてきた場合には、手続的な観点からの反論が成り立つことがあります。
もっとも、催告が不要とされる場合も定められています。追完が不能であるとき、売主が追完を拒絶する意思を明確に表示したとき、契約の性質や当事者の意思表示により特定の日時までに履行しなければ契約の目的を達成できない場合においてその時期を経過したとき、そして催告をしても追完を受ける見込みがないことが明らかであるときです(同条2項)。「催告がないから応じない」という対応だけで押し切れるとは限らない、という前提で検討する必要があります。
損害賠償・解除には別個の要件があることを確認する
追完請求と代金減額請求は、売主に落ち度がなくても認められます。これに対し、損害賠償請求と契約の解除には、それぞれ別個の要件があり、ここが売主側の反論の中心になる場面が少なくありません。
損害賠償請求については、民法564条が415条を準用しているため、契約不適合が契約その他の債務の発生原因および取引上の社会通念に照らして売主の責めに帰することができない事由によるものであるときは、売主は賠償責任を負いません(民法415条1項ただし書)。追完や代金減額には応じざるを得ない事案であっても、損害賠償までは負わないという結論があり得るということです。
契約の解除については、催告解除の場合、不履行が契約および取引上の社会通念に照らして軽微であるときは解除が認められません(民法541条ただし書)。補修によって容易に是正できる程度の不具合を理由に契約全体の解除と代金全額の返還を求められている事案では、この点が有力な反論になります。
さらに、契約不適合が買主の責めに帰すべき事由によって生じたものであるときは、買主は追完請求も代金減額請求もすることができません(民法562条2項、563条3項)。引渡し後の買主自身による使用方法や改変が原因ではないかという点は、事実関係として必ず確認すべきポイントです。
通知期間・消滅時効など期間制限を確認する
見落とされやすいのが期間制限です。種類または品質に関する契約不適合については、買主が不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しなければ、原則として責任を追及できなくなります(民法566条)。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知っていた、または重大な過失によって知らなかった場合には、この期間制限は適用されません。
なお、この1年の通知期間は種類・品質に関する不適合についてのルールであり、数量不足や権利に関する不適合には適用されません。これらについては、一般の消滅時効の規律によることになります。契約書で通知期間を短縮する特約が置かれている場合もあるため、条項の確認が欠かせません。
事業者間の取引では、さらに短い期間制限が働きます。当事者双方が商人である売買については、買主は目的物を受領したときは遅滞なくこれを検査し、種類・品質・数量に関する不適合を発見したときは直ちに通知しなければ、責任を追及することができません。直ちに発見することができない不適合についても、受領の時から6か月以内に発見して通知しなければ同様です(商法526条1項・2項)。民法566条の「知った時から1年」より大幅に短いため、法人間・事業者間の取引で請求を受けた場合には、最初に確認すべき防御線になります。ただし、売主が不適合を知っていた場合には、この規定は適用されません(同条3項)。
交渉・調停・訴訟それぞれの見通しと選択基準
法的な検討を経たうえで、どの解決手段を選ぶかを判断します。補修費用の見積額が争いの中心であれば、専門業者の見積りを複数取得したうえでの交渉によって早期に解決できる場合があります。感情的対立が強い事案では、民事調停によって第三者を介した話し合いの場を設けることが有効なこともあります。
主張が真っ向から対立し、事実関係の立証が必要な事案では訴訟となりますが、判決までに1年以上を要することも珍しくありません。紛争の長期化そのものが事業上のコストであるという視点から、早期の和解による解決が合理的な場合も多くあります。
トラブルを未然に防ぐための契約実務
物件状況報告書・付帯設備表を正確に作成する
売主にとって最大の防御は、知っている事実を漏れなく開示し、その記録を残しておくことです。物件状況報告書と付帯設備表は、この目的のために存在する書面です。
雨漏りや漏水の履歴、増改築の経緯、境界の状況、近隣との申し合わせ事項、過去の土地利用状況など、買主の判断に影響し得る事項は積極的に記載してください。不利な事実を書くことで売却価格が下がることを懸念される方もいますが、開示して合意した事実は契約の内容となり、後日の請求を封じる盾になります。隠して売却した場合の損害の方が、はるかに大きくなるのが通例です。
免責特約の有効性と限界
契約不適合責任に関する民法の規定は任意規定であるため、当事者の合意によって売主の責任を免除・制限する特約を設けることができます。中古物件を現況有姿で売却する場合などに用いられる手法です。
ただし、この特約には次の制約があります。
第一に、売主が知りながら告げなかった事実については、免責特約があっても責任を免れることができません(民法572条)。特約は、あくまで売主自身も知らなかった不具合についての備えです。
第二に、売主が宅地建物取引業者で買主が業者でない場合には、宅地建物取引業法40条により、目的物の引渡しの日から2年以上となる特約を除いて、民法566条に定める通知期間について買主に不利となる特約は無効とされます。全部免責の条項についても、同条の趣旨に照らして効力は認められないと解されています。
第三に、売主が事業者、買主が消費者である取引では消費者契約法が適用され、損害賠償責任の全部を免除する条項は原則として無効となります(同法8条1項)。
もっとも、この点には例外が設けられています。引き渡された目的物が種類または品質に関して契約の内容に適合しない場合の損害賠償責任については、その契約において事業者が履行の追完をする責任または不適合の程度に応じた代金減額の責任を負うこととされているときなどには、8条1項が適用されないものとされています(同条2項)。追完責任を残す設計としておくことで、損害賠償責任については一定の制限を及ぼす余地があるということです。条項を設計する際には、この構造を踏まえた組み立てが必要になります。
第四に、新築住宅については住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)により、構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分について、引渡しから10年間の責任が定められており、これに反する買主に不利な特約は無効です(同法95条)。
免責特約は有効に機能すれば強力ですが、万能ではなく、どの立場で誰に売るかによって使える範囲が変わるという点を押さえておく必要があります。
インスペクション(建物状況調査)の活用
既存住宅の売買では、既存住宅状況調査技術者である建築士による建物状況調査(インスペクション)を活用する例が増えています。宅地建物取引業法上も、媒介契約書にあっせんの有無を記載し(34条の2第1項4号)、調査を実施した場合にはその結果の概要を重要事項として説明することとされています(35条1項6号の2)。さらに、37条書面には、構造耐力上主要な部分等の状況について当事者双方が確認した事項を記載することとされています。
売主にとっては、事前に建物の状態を客観的な記録として残せる点にメリットがあります。調査結果を踏まえて契約書や37条書面に不具合を明記しておけば、その部分については契約の内容に取り込まれ、「契約の内容に適合していない」という買主の主張を封じることができます。後日の紛争を大きく減らす、実務上有効な工夫です。
札幌・北海道の不動産売買で特に注意したいポイント
積雪・落雪・凍結による建物損傷と告知の範囲
北海道の不動産には、本州の物件にはない固有の論点があります。凍結による給排水管の破損履歴、雪の重みによる屋根や躯体の変形、無落雪屋根(スノーダクト方式)のドレン詰まりや漏水の履歴などです。
これらは冬季にしか症状が現れないことが多く、夏場の内見では買主が気づくことができません。過去に凍結や漏水、雪害による補修を行った履歴があるのであれば、物件状況報告書に明記すべき事項と考えるべきです。加えて、隣地への落雪をめぐって近隣と申し合わせがある場合、その内容も引き継ぐべき情報にあたります。
また、境界標が根雪に埋もれて確認できない時期には、境界の確認作業自体が実質的に困難となります。冬季の売却では、融雪後の境界確認を前提とした条項を契約に盛り込むといった工夫が必要になる場面もあります。
古家付き土地・空き家の売買で問題になりやすい点
道内では、建物としての価値がほとんど残っていない古家付きの土地が取引される例が多く見られます。この場合、建物の不具合について責任を負わない旨の特約を置くのが通常ですが、土地部分の契約不適合(地中埋設物など)まで免責されるとは限らない点には注意が必要です。旧建物の基礎やブロック塀の残置物が地中から発見され、撤去費用を請求されるケースがあります。
また、長期間空き家となっていた物件では、除排雪が行われていなかったことによる損傷や、近隣との間の懸案が既に生じていることもあります。空家等対策の推進に関する特別措置法に基づく指導や勧告を受けた経緯がある場合には、その事実も買主の判断に影響する事情となり得ます。
同法は2023年に改正され、そのまま放置すれば特定空家等に該当するおそれのある「管理不全空家等」の類型が新設されました。管理不全空家等として勧告を受けると固定資産税等の住宅用地特例の対象から外れるため、保有コストにも直結します。売却前に、市町村から何らかの指導・勧告を受けていないかを確認しておくべきです。
不動産売買トラブルを弁護士に相談するメリット
早期相談が損害を最小化する理由
買主から請求を受けた段階での初動対応は、その後の展開を大きく左右します。責任の有無が定まらないうちに補修を約束してしまう、あるいは請求に一切応じない姿勢を示して相手を硬化させる。いずれも、後の交渉や訴訟で不利に働きます。
弁護士が早期に関与することで、契約書類に基づいて反論の可否を法的に整理し、期間制限の主張が可能かどうかを含めて、取り得る選択肢を明確にすることができます。また、交渉の窓口を弁護士に一本化することで、経営者の方が本業に集中できる状態を保つこともできます。
顧問弁護士による契約書チェック体制の構築
不動産取引を継続的に行う事業者の方にとっては、紛争が起きてから相談するよりも、契約書と付随書類の型を整えておくことの方がはるかに費用対効果が高くなります。
免責特約をどこまで設定できるか、物件状況報告書にどこまで記載すべきか、ローン特約や解除条項をどう設計するか。これらは取引ごとに判断が必要でありながら、一定の型を作っておくことで大半の場面に対応できます。顧問契約を活用いただければ、個別の取引について随時ご相談いただくことが可能です。
ご相談の流れと弁護士費用の考え方
当事務所では、まず売買契約書・重要事項説明書・物件状況報告書といった書類を拝見したうえで、買主の請求に法的根拠があるか、反論の余地がどこにあるかを整理してご説明します。そのうえで、交渉・調停・訴訟のいずれによるべきか、解決までの見通しと費用の目安をお示しします。
弁護士費用は、請求されている金額や事案の複雑さによって異なります。ご依頼前に費用の見積りを明示しますので、その内容にご納得いただいたうえでご判断ください。
まとめ
不動産売買のトラブルは、契約書と関係書類の作り込みによって、その多くを防ぐことができます。そして、既に発生してしまったトラブルについても、契約の内容と期間制限を正確に押さえることで、想定より軽い負担で解決できる場合が少なくありません。
札幌・北海道で不動産の売買に関するトラブルにお困りの方、また継続的に不動産取引を行う事業者の方は、すがの総合法律事務所までお気軽にご相談ください。

